ROASとは?ROI・CPAとの違いやメリット・デメリットを解説
デジタルマーケティングにおいて、広告効果を正確に測定し最適化することは、効率的な予算運用の基盤となります。
ROAS(Return On Advertising Spend)は広告投資に対する売上効果を具体的な数値で示す指標ですが、実務では適切な活用ができていないケースも少なくありません。
ROASの数値は把握していても、その数値が示す意味を正しく解釈できていない、あるいは改善に向けた具体的なアクションに結びつけられていないといった課題が存在します。
本記事では、ROASの基本的な概念から実践的な活用方法まで解説します。
【この記事はこんな方におすすめです】
- 広告予算の最適な配分方法を検討している方
- 広告投資の意思決定に客観的な指標を取り入れたい方
- マーケティング予算の配分を最適化したい方
ROASとは?
ROAS(Return On Advertising Spend)は、広告費用に対してどれだけの売上が得られたかを示す重要な指標です。具体的には、広告に投資した1円あたりの売上額を表します。
ROASはデジタルマーケティングにおいて、広告の売上効果を測定し、投資対効果を評価するために広く使用されています。ただしROASは売上を基準としているため、利益率など他の指標と併用することで、より正確な広告効果の評価が可能です。
ROASを活用することで、各広告キャンペーンや広告チャネルの効率を比較し、予算配分の最適化や広告戦略の見直しを効果的に行うことができます。
ROASとROIとの違い
ROASは、広告費用に対してどれだけの売上が得られたかを示す指標で、広告のパフォーマンスを直接評価するために使用されます。
一方、ROI(Return On Investment)は、投資全体に対する利益を測定する指標であり、広告だけでなく商品コストや運営費などの全体的な投資額を考慮して収益性を評価します。
ROASは広告戦略の短期的な効果を把握するのに役立ちますが、ROIは長期的なビジネスの収益性を評価するための総合的な指標です。そのため、ROASは広告効果の最適化に特化した分析に向いており、ROIは企業全体の利益状況を把握するのに適しています。
これらの違いを理解し、目的に応じて適切な指標を用いることが、効果的な広告戦略や投資判断を行ううえで欠かせません。
ROASとCPAとの違い
ROASは広告費用に対する売上の効率を測定する指標で、広告による収益性を売上の観点から評価します。一方、CPA(Cost Per Acquisition)は、1件のコンバージョンを獲得するためのコストに焦点を当てた指標で、購入や登録といった具体的な成果の単価を把握するために用いられます。
ROASは「売上の最大化」に重きを置き、広告がどれだけ収益を生み出しているかを示します。対照的に、CPAは「コストの管理」に役立ち、特定の成果を獲得するために必要な費用が適切かどうかを評価します。両者は広告の異なる側面にフォーカスするため、キャンペーンの目的に応じて使い分ける必要があります。
ROASの計算式
広告のパフォーマンスを評価する際、ROASはシンプルかつ効果的な指標です。
計算式は「広告による売上 ÷ 広告費用×100(%)」で求められ、広告費用に対してどれだけの売上が得られたのかが把握できます。
自社の広告キャンペーンに10万円を投じ、結果として50万円の売上が発生した場合、ROASは次のように計算します。
ROAS=50万円÷10万円×100=500%
上記計算では、ROASの値が500%となっており、広告にかけた費用が回収できたことがわかります。
ROASを算出する際は、上記計算式を参考にしてください。
ROASの目安
ROASの目安は業界やビジネスモデル、利益率によって異なるため、一概に「この数値が正しい」とは言えません。
たとえROASが高い値を示していても、粗利を含めた計算を行うと、十分な利益が確保できていないケースも少なくありません。
ROASが100%以上であれば、投資した広告費以上の売上を得ていることを示しますが、これだけでは必ずしも適切な利益が確保できているとは限りません。
なぜなら、実際の収益性を判断するためには、売上から商品の原価やその他の費用を差し引いた「粗利」を考慮する必要があるからです。
たとえROASが高い値を示していても、粗利を含めた計算を行うと、十分な利益が確保できていないケースも少なくありません。
具体例を見てみましょう。
200万円の広告費を投資して400万円の売上があった場合、ROASは200%となります。
一見すると良い数値に見えますが、商品の粗利率が50%だとすると、実際の粗利は200万円となり、広告費と相殺されてしまいます。
つまり、売上は増加したものの、最終的な利益は出なかったことがわかります。
上記の例は極端な事例ですが、ROASの適切な目標値を設定する際には、以下の要素を総合的に考慮する必要があります。
- 商品の粗利率
- 固定費を含むその他の費用構造
- 業界特性や競合状況
これらの要素を踏まえた上で、自社のビジネスモデルに適したROAS目標を設定することが、効果的な広告運用につながります。
ROASのメリット
ROASは広告効果を測定する重要な指標として、多くの企業のマーケティング活動で活用されています。
特に、デジタル広告の効果測定において、ROASは具体的な数値として成果を可視化できることから、戦略的な広告運用に欠かせない指標です。
以下では、ROASを活用することで得られる3つの主要なメリットについて説明します。
広告の費用対効果を計測できる
ROASを活用することで、広告投資に対する売上の関係を具体的な数値として把握できます。
従来の広告効果測定では見えにくかった「費用対効果」の関係性が明確になり、より戦略的な意思決定が可能です。
特に、複数の広告媒体やキャンペーンを同時に展開している場合、それぞれの効果を数値として比較できることは大きな強みです。
どの施策がより効果的に売上に貢献しているのか、あるいはどの商品カテゴリーがより高い効果を生んでいるのかを、客観的に判断できるでしょう。
また、時系列での分析も容易になり、季節変動や市場トレンドがROASに与える影響も把握できます。
このように、ROASは広告投資の効果を多角的に測定・評価できる指標として、効率的な広告運用を支援する値です。
広告の改善点や見直しができる
ROASによって得られた数値を分析すると、広告キャンペーンのどこがうまくいっていて、どこを改善すればいいかを明確にすることができます。
分析結果を基に広告戦略を見直すことで、効果の低い広告を最適化し、より良い結果を得ることができます。
例えば、特定のターゲット層への広告が期待したほどの効果を上げていない場合、そのターゲットを見直したり、クリエイティブを改善したりすることで効果を高めることができます。
こうした改善を繰り返すことで、広告の効果を向上させることができます。
また、広告メッセージや画像がターゲットに響いているかを理解し、広告内容を調整することで、ターゲットにより効果的にアプローチすることが可能です。
うまくROASの分析ができるようになると、広告費の無駄を減らし最大の効果を引き出せるでしょう。
広告戦略が立てやすくなる
ROASのデータを使えば、どの広告チャネルが最も効果的かを特定することができ、次の広告戦略をしっかりと立てることができます。
費用対効果が高いチャネルにリソースを集中することで、広告予算を最適に配分し、目標達成に向けた効果的な戦略を練ることもできるでしょう。
例えば、SNS広告、検索広告、ディスプレイ広告など、さまざまな広告チャネルの中からROASが最も高いものを特定し、そこに重点的に予算を配分することで、より効率的な広告展開が可能になります。
ROASの分析を通じて、広告チャネルごとの数値を比較し、どのチャネルが自社のビジネスに最も適しているかを理解できるのもROASの良いところです。
ROASによって得られた数値を広告戦略に活用できれば、企業はより明確で効果的な広告戦略を策定し、広告活動全体のパフォーマンスを向上させることができます。
ROASのデメリット
ROASを使うと多くのメリットがある一方で、ROASだけでは解決できないデメリットもあります。
ROASは広告の費用対効果を測定するための有用な指標ですが、その限界を理解し、他の指標と組み合わせることが求められる点を理解しておかなければなりません。
以下では、ROASのデメリットについて4つ説明します。
実際の利益を測定できない
OASは広告に対する売上を測定する指標ですが、実際の利益を直接測定するものではありません。
広告費に対してどれくらいの売上があったかを示すだけで、原価や他のコストを考慮していないため、実際の利益を把握することはできないのです。
例えば、売上が高くても、原価や運営費用がかかりすぎている場合、最終的に利益が出ないこともあります。そのため、広告の本当の収益性を判断するには、ROASだけでなく、利益率や他の財務指標も併せて分析していかなければなりません。
企業が本当に利益を上げているかどうかを確認するためには、ROASの結果に加え、コスト管理や利益分析も同時に行う必要があります。
数値だけで今後の方向性を決められない
ROASは広告の成果を数値化することができますが、その数値だけで将来の広告戦略を決定するのは難しいことがあります。たとえROASが高くても、一時的なものであったり、特定の市場環境に依存していたりする場合もあります。
そのため、ROASの結果から広告戦略を考える際には、他の要因や市場の動向を考慮することが大切です。
ROASはあくまで広告のパフォーマンスを評価する一つの指標であり、戦略全体を見直す際には他の情報も必要です。
また、ブランドの認知度や顧客のロイヤリティといった、長期的な視点からの評価も欠かせません。ROASの数値だけに頼るのではなく、定性的なデータや市場の動向を総合的に判断して、より適切な戦略を立てることが求められます。
利益が赤字になる場合がある
ROASが高い場合でも、全体的な利益が赤字になることがあります。
赤字になるケースとして挙げられる事例として以下のパターンがあります。
項目 | 金額 |
---|---|
売上 | 10,000,000円 |
製造コスト | 4,000,000円 |
物流コスト | 1,500,000円 |
人件費 | 2,000,000円 |
広告費用 | 4,000,000円 |
利益 | ‐1,500,000円 |
上記パターンは極端な例とはなりますが、最終的な利益は赤字となっています。
最終的な判断をROASだけに頼るのではなく、ビジネス全体の収益性を把握するためにほかの経営指標も活用する必要があります。
利益を出すためには、広告以外の部分も最適化することが求められるのです。
知名度が低い
ROASは広告の費用対効果を測るための便利な指標ですが、他の指標に比べて一般的な知名度が低いという問題があります。特に、ROASを知らないクライアントや経営陣に対して、その重要性を説明し理解を得るのは難しいことがあります。
一般的に指標としてROI(投資収益率)やCPA(顧客獲得単価)の方が広く知られているため、ROASの結果を説明する際にはその違いをわかりやすく伝えなければなりません。
そのため、ROASを使った分析結果を活用するためには、関係者に対してその重要性を説明し、共通理解を築く努力が必要です。
ROASの価値を効果的に伝えるためには、具体的な数値やグラフを使って視覚的に説明したり、他の指標との比較を行ったりすることが有効です。
ROASを改善するためのポイント
ROASは広告の費用対効果を測定するための重要な指標ですが、算出した数値をいかに改善していくかが成功のカギだといっても過言ではありません。
ROASを向上させるためには、広告戦略のさまざまな要素を見直し、最適化することが求められます。
以下では、ROASを改善するための具体的なポイントを6つ説明します。
広告ターゲットを最適化する
あらかじめ設定するターゲットが適切でなければ、広告の効果は十分に得られません。
ROASを改善するためには、広告のターゲットを見直し、効果的にリーチできるよう最適化することが大切です。
広告で訴求するターゲットを絞ることで、広告の無駄を減らし、コンバージョンを高められます。また、ターゲティングの精度を上げるために、顧客データを分析し、顧客のニーズや行動に基づいたターゲティングを行うことが有効です。
CVRを向上させる
コンバージョン率(CVR)を向上させることも、ROASの向上に直結します。広告を見た人が実際に購入や申し込みに至るよう、ランディングページを改善したり、購入フローを使いやすくしたりすることが必要です。
また、ユーザーの行動データを分析し、どの部分で離脱が発生しているかを把握し、その部分を改善することもCVRの向上に役立ちます。
ユーザーがスムーズに商品購入に進むための簡潔なプロセスを構築し、離脱率を下げることで、CVRを高めることができます。
顧客単価を上げる
ROASを高めるには、顧客単価を上げることも効果的です。
広告で獲得した顧客が一度に購入する金額を増やすことで、売上が増え、ROASが向上します。顧客単価を上げるためには、セット販売やアップセルの提案、割引の適用などを考えることが有効です。
また、関連商品を提案して購入を促すクロスセル戦略も、顧客単価の向上に寄与します。顧客がより多くの商品を購入することで、売上全体が増加し、広告費の効率も向上します。
リピート購入を強化する
既存顧客のリピート購入を促すことも、ROASを向上させるために重要です。一度獲得した顧客に再度購入してもらうことで、広告費をかけずに売上を増やすことができます。
主な施策は以下のとおりです。
- メールマーケティング
- 特典
- ポイント制度
上記施策はリピート購入をしてもらうためには欠かせないものであり、リピート購入を促進する仕組みを整えることがポイントです。
また、顧客満足度を向上させることで、顧客のリピート率を高めることができます。
顧客との関係を築き、長期的に利用してもらえる顧客に育てていくことも考えていく必要があります。
広告費用を抑える
ROASを向上させるには、広告費用の見直しも大切です。
パフォーマンスが悪い広告にかける費用を削減し、効果が高い広告に予算を集中させることで、全体のROASを向上させることが可能です。
さまざまな施策がありますが、なかでも有効なのは「広告の配信タイミング」です。配信する時間を最適化することで、無駄な費用を削減し、効果を最大化することができます。
例えば、特定の時間帯や曜日に効果が高い場合、その時間帯に集中して広告を配信することで、より効率的な広告運用が可能となるでしょう。
クリエイティブの改善
広告のクリエイティブ(サイトのデザインやLPなどを指す)の質も、ROASに大きく影響します。
広告のデザインやコピーがターゲットに響かなければ、効果は大きく減少します。そのため、ターゲットに共感してもらえるメッセージを持つコンテンツを作成することが重要です。
また、定期的に広告やLPを見直し、常にターゲット層が求めている内容を提供することで、ターゲットの興味を引き続けることが可能です。
さらに、顧客の意見を取り入れることで、ターゲットにより深く響く広告を実現し、広告効果を向上できます。
ROASの改善に役立つおすすめツール
ROASを改善するためには、広告パフォーマンスを正確に把握し、適切な改善策を進めなければなりません。
改善に用いるツールとして、アクセス解析ツールやA/Bテストツール、Web接客ツールなどのツールを活用することが非常に効果的です。
以下の表では、各ツールをどのようにして使うのか?また代表的なツール名をご紹介します。
ツール名 | サービス名 | 説明 |
---|---|---|
アクセス解析ツール | Google Analytics | サイト訪問経路の把握と離脱ポイントの特定による無駄な広告費用の削減 |
A/Bテストツール | Optimizely VWO |
広告クリエイティブやランディングページの効果比較によるコンバージョン率の向上 |
Web接客ツール | KARTE, Zendesk |
サイト訪問者への適切なメッセージ表示によるコンバージョンの促進と離脱防止 |
各ツールについてさらに詳しく理解することで、それぞれの特徴や使い方が明確になり、より効果的なROASの改善が期待できます。以下に、それぞれのツールについて簡単にご紹介します。
アクセス解析ツール(Google Analytics)
ユーザーがどのようにサイトを訪問しているか、どのページで離脱しているかを詳細に分析することで、改善すべき点を明確にし、広告費用を最適化することが可能です。
A/Bテストツール(Optimizely, VWO)
異なる広告やページのバージョンを比較して、最も効果的なクリエイティブを見つけ出し、コンバージョン率を向上させるために活用できます。
Web接客ツール(KARTE, Zendesk)
訪問者にリアルタイムでメッセージやポップアップを表示することで、ユーザー体験を向上させ、購入や申し込みなどのコンバージョンを促進します。
これらのツールを組み合わせて活用することで、広告からコンバージョンまでの一連のプロセスを最適化し、ROASの継続的な改善を実現することができます。
各ツールから得られるデータを統合的に分析し、施策に反映させることで、より効率的な広告運用が可能となるでしょう。
まとめ
ROASは広告投資の効果を測定する重要な指標ですが、その数値の解釈や改善に向けたアプローチには、包括的な理解と適切な運用が求められます。
ROASの向上には以下の要素が必要です。
- 広告ターゲットの最適化とCVRの向上
- 顧客単価の向上とリピート購入の促進
- 効果的なツールの活用による広告効果の測定と改善
ROASを単なる数値として捉えるのではなく、事業の収益性や長期的な成長を見据えた指標として活用することで、より効果的な広告運用が可能となります。
ぜひ、本記事の内容を実務での広告効果改善にお役立てください。